空の殻

ゲームの感想とか。

【PC】ゲームプレイ日記 #21【この大空に! PULLTOP ジュブナイルパック】【この大空に、翼をひろげて Flutter Wings】

 

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 今回は『この大空に! PULLTOP ジュブナイルパック』の感想になります。

 本ゲームには、紺野アスタさんがライターを務めたPULLTOPの青春シリーズ4作品が収録されています。タイトルとしては、『この大空に、翼をひろげて Flutter Wings』 『見上げてごらん、夜空の星を Light Signal』 『空と海が、ふれあう彼方』 『あの日の旅人、ふれあう未来』です。

 この中から、『この大空に、翼をひろげて Flutter Wings』 『見上げてごらん、夜空の星を Light Signal』の2作品を抜粋して感想を書いていこうと思います。以下、ころげて、みあげてと呼称。

 まずは、ころげての感想から。

 簡単に言うと、グライダーを作ってモーニンググローリーと呼ばれる雲の上を飛ぼうぜっていう話なんですが、一言では表せない青春と情熱が詰まった物語でした。登場人物たちが空を目指す理由はそれぞれですが、そこに込められた思いはとても眩いものに感じられました。部活動として、みんなで何かを成し遂げるっていうのは青春満載で、非常に楽しめましたし、同時に心を動かされました。一方で、あまりの眩しさに正直画面を直視できないこともあり、もう少し若いときにプレイしたかったという気持ちもあります。

 高専のことは明るくありませんが、実際男女比1:1ってどうなんですかね。私は大学時代工学部でしたが、9:1くらいだった気がします。今の職場だともっと女性の割合は低いですから、羨ましい限りです。本当に羨ましい限りです。

 さて、主人公の碧くんは、ロードレース中の事故で競技を引退し故郷へと帰ってきた、いわば翼を剥奪された人間です。私自身、幼い頃からやっていたバスケを怪我で諦めた経歴があるので、その絶望感は痛いほど分かります。世界は広く、子どもは特に様々な可能性があるんですけど、今まで注いできた熱量が多いほど、それを失ったとき心の穴は大きいんですよね。集中するほど視野は狭まりますし、しゃーない切り替えてけなんて思えるはずもなく、一気に自分の価値が無くなったように錯覚し、なんなら死にたくもなります。けれど、碧くんはちゃんと新たな道を見つけて立ち上がれたのは立派だと言ってあげたいです。我々人間の持つ翼というのは、身体的優位性や生まれ持った才能ではなく、目標に向かって進もうとする意思なんじゃないかと感じました。

 それから、碧くんは家事ができて、しっかり系主人公だと思っていましたが、意外と世間ずれしているところも多くてかわいいなと。基本的に、優しさとか思いやりを正直に行動に移した結果だったりするけど、たまにマジかと思うようなことも平然と行なったりする。亜紗が指を切ったときの消毒の仕方はマジやばい。台所なんだから、水で洗えと。もっと言えば救急箱あるなら消毒液を使えと。不衛生で下手したら感染症の恐れがあるとかよりも、あんなことされたら引く。朝ご飯に麻婆豆腐出したり、一斗缶持った状態で本屋行ったりとか、碧くんはそういうところちょくちょくあるからな。硬化剤の密度によるけど、20kg近くあるだろうに。これがモテる男というやつなんでしょうか。

 そして小鳥については、事故で車椅子生活といった碧くん以上に多くを失った人間です。普通という最もありふれた才能を剥奪された彼女の絶望は計り知れません。そんなときこそ周囲は支えてあげないといけないのに、本人そっちのけで親が喧嘩とかリアルすぎて嫌になりますね。だからこそ、似た境遇のイスカが残したノートや碧くんと出会えて本当によかったと思います。そして、一人では普通のことすらできない彼女が、普通の人が成し遂げられないような夢を叶えたというのは、かなり熱かったです。もちろん、多くの人に支えられたからこそですが、誰よりも空に焦がれ、まわりの人間を動かしたのは紛れもない小鳥の力であって、それが彼女の翼だったと思います。小鳥はもともと元気で明るい性格なので、初めは弱さの裏返しで周囲に当たりが強かったところが、みんなと仲良くなってやっぱり当たりが強くなるのが微笑ましかったです。小鳥と天音との関係好き。

 次にあげはですが、個人的に本ゲームのMVPですね。グライダー製作に関して天音が持ち上げられ気味ですが、あげはが本当に偉すぎる。グライダーなんで複雑な形状ではないとはいえ、特に主翼のような巨大で曲面かつ左右の均衡さが求められるようなものを経験なく手作りは、カタギじゃない。設計について私なんかは要求に対して机上で概算したあと、すぐモデル作って解析回しちゃいますけど、その後大変なのが試作評価のステップなんですよね。試作は社内外に投げちゃえばそれで済むんですけど、先行開発だとちゃんとした評価設備がなかったりするので、結構無理に手作りしたりすることも多く、自分の不器用さに泣きたくなることばかりです。天音の気持ちが本当によく分かります。そして、コミュ力が高く、各所にすぐに交渉したりするところとか、完全に仕事できる人の特徴ですよね。あと、姫城家の居間にあるボストンダイナミクスのロボットっぽい置物が欲しいです。最近ファーウェイも似たようなこと始めたらしいですけど、あのフォルムが絶妙で好きだったりします。

 そして、天音。たぶん私より年上。修士とれる年齢なんじゃないでしょうか。制服はもはやコスプレ、周囲からしたらご褒美。天音は良くも悪くも利己的で、本人が意図せずとも他人の人生を変えてしまったりだとか、それに対してほとんど意に介さないところとか、天才っぽいし、子どもっぽいとも思います。無邪気ゆえに、盲目的にイスカに憧れ、彼女の気持ちも考えようとはせず、だからこそ、壮大な夢が始まり多くの人を巻き込んでしまいました。イスカがいなくなって何年も経ってから彼女の気持ちを知り、そこでようやく親友に歩み寄れたのだと思います。イスカは自らの夢が不純で偽物のようであるといいますが、天音が好きで同じ道を目指し進みたいという、その根源にある思いはやはり本物でした。イスカは憧れた天才の隣にいられませんでしたが、時が経っても夢は呪いのように残り続け、やがてそれは希望へと変わりました。思いが他人を動かし、その他人の思いに突き動かされる、葛藤含め青春してて羨ましかったです。

 飛岡に関しては、大人として言ってることはごもっとな癖に、天音個人に恨みをぶつけたりとか、汚いやり方で邪魔したりだとか、子供っぽくて少し残念でした。実際、フィクションじゃなかったら見てられないってくらい危険なことを何度かやってるので、大人としては止めるのが当たり前ではあるんですが、色々中途半端な気がしました。飛岡の失敗は、イスカに肩入れしすぎたことだと思います。イスカと天音の二人に寄り添ってあげてれば、未然に事故を防げたかもしれませんし、二人の夢を手伝うこともできたかもしれません。大人の役割としては、危険なことをやらせないか、リスクを最小限にするために努力することの二択だと思います。ATRIでいうヤスダのようなキャラでした。ですが、飛岡は自分で責任すら負えなかったんですよね。

 最後に風戸姉妹ですが、個人的に二人ともかなり好きなキャラでした。亜紗の方は自分に自信がないからこそ、周囲に合わせて自分を滅多に出さない。しかし、それを続けていれば、心に澱が溜まっていくわけで、とても人間らしい汚さを内包しているキャラでした。けして聖人ではなく、けれど、その汚さもありふれたもので、魅力的に感じました。碧やソアリング部に関わることで、今までに溜め込んできた妹との小さな確執をぶつけ合うシーンがとても好きです。でも、強いて言うなら亜紗よりも依瑠の方が好きでした。初め、依瑠は亜紗以外とろくに関わろうとせず、姉に依存していると思ってましたが、それは間違いで、非常に強く、そして優しい子でした。だからこそ、倫理ぶっ壊れ√は好きです。亜紗√をクリアしたとき、え、依瑠は? ってなったので、用意していただき感謝です。この√の違いがまさしく、二人の性格の違いを表していて、ゆえに、私は依瑠が愛おしくて好きなのだと思います。ただし、きのこたけのこ派閥によっては逆転もあり得ます。

 サブキャラとしては、佳奈子さんが本当に好きでした。なんでこの人がヒロインじゃないんだ? ってくらいには素敵なキャラでした。FDではヒロイン昇格らしいですけれど、残念ながら本作には収録されておらず、本当に悲しい。これについては、後ほどなんとかして手に入れたいと思います。

 総括すると、キャラもストーリーも素敵で、非常に楽しかったです。年を取るにつれて、こういった青春満載のゲームがだんだんキツく感じてくるので、今のうちにやれてよかったと思います。恥ずかしながら、モーニンググローリーとか、知らない知識もあったので、勉強にもなりました。初見では、なつくもゆるるか? って思ってしまうくらい、こんな気象があるのかと驚きました。

 あと、全体の√構成も個人的にいいなと感じました。こういうシナリオにありがちな構成として、共通でモーニンググローリー飛ぶことができました、個別√はイチャイチャメインの後日譚です。っていうことが多々あるんですけど、本作はメインシナリオの中にちゃんと個別を織り込んでいて、失速しなかったことがよかったと思います。ヒロインの抱える問題も解決しながら、空を目指すっていう構成だったので、物語とヒロインが融和していて蛇足感がなく、最後まで楽しめました。

 

 昨年ATRIをプレイしたときに、本作も是非プレイしたいと思ったので、四作品が詰まったこのゲームが販売されて本当に嬉しいです。

 あと、ATRIの感想記事がtwitterの方で紺野アスタさんにいいねとリツイートしていただいて、めちゃくちゃ嬉しかったです。

 

 予想以上に長くなってしまったので、みあげての方は、また後で。

 

『見上げてごらん、夜空の星を Light Signal』感想