空の殻

ゲームの感想とか。

【PC】ゲームプレイ日記 #20【青い空のカミュ】

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※このゲームには18歳未満の方には不適切な表現が含まれています。

 本日の感想はKAI-SOFTさんの『青い空のカミュ』になります。

 何から書こうか迷ってしまうようなゲームでしたが、感想を一言で言ってしまうならば、美しいゲームだった、でしょうか。

 タイトルにもある通り、本作にはアルベールカミュの不条理の哲学が根底に存在しています。私は異邦人とペストくらいしか読んだことがないため、そんなに込み入った考察だとか、作者の意図なんかは汲み取れていないと思いますが、そんな自分が感じた美しさを今回は書いていこうと思います。公式サイトを見ると、シーシュポスの神話とかも理解に重要そうですが、残念ながら未読。他にも宮沢賢治だとかも物語に大きく関係してきます。今年プレイしたエロゲの3/4に銀河鉄道の夜が関連するとか、どんな偶然。そして、これまでは直接的なネタバレは極力避けてきましたし、大して意識はしてきませんでしたが、今回はこの前置きをしておきます。

 

本記事はゲームの重大なネタバレを含みます。

 

 誰も見ていないことよりも、誰でも見れる状態で公開している以上はこういった注意書きもちゃんと記しておくべきだと感じただけです。

 それでは、本題に。本作の主人公は女子二人。主人公達が異性と恋仲になったりするような、よくある“美少女ゲーム”とは異なる物語でした。地の文が三人称なのも珍しいと思います。

 物語は基本一本道で選択を間違えると化け物に凌辱されてバッドエンド。選択肢も運ゲー要素高いし、不条理というより理不尽? と感じるような序盤でした。ストーリーが進むにつれて理由も明らかになり、ただの理不尽ではなく不条理だということも判明しますが、それにしたって凌辱シーンはノリノリなライターさんの姿が目に浮かぶようでした。しかも触手が好きなんだろうなっていうのが文章から滲みでていましたね。原画も同じ方がされているということで、おそらくストーリーに託けて趣味全開で書(描)かれたんだと思います。四肢切断とか、ハードめなプレイはありませんでしたが、個人的にかわいそうなのはあまり好きじゃないですね。

 あと特徴的なものとしては、グリッチでしょうか。文章を読み進めていると急に画面にノイズが発生して、進行中の物語とは別の物語に移ることができるというシステムです。グリッチで別の物語に移るかどうかの選択はプレイヤーに委ねられているわけですが、正直これはあまりプラスに働いていないように思いました。ここで別の物語見る? ここを逃したらもう見られませんよ? って聞かれて普通初見の人はノーと言わないですし、いちいちグリッチが入るのがテンポを悪くしているような気がしました。グリッチの内容が燐と蛍にも見えて、それによって物語が分岐するとか、そういった要素があれば面白かったと思いますが、実際には単に場面と視点が変わるだけです。世界の歪みとかチャンネルの切り替えってところを意識させたかったのかもしれませんが、もう少しうまい方法があったと思います。

 ストーリーには伝奇要素が含まれており、徐々に二人を取り巻く世界の謎が判明していくのは個人的に好きな種類の物語でした。一方で、伝奇物としては物足りなさを感じてしまうような部分もありました。一つとしては、物語として都合がよすぎると感じてしまったことです。登場人物にとって都合のいい、いわゆるご都合展開だけではなく、第四の壁を越えた我々人間にとって都合のいい物語であるように思えてしまいました。唐突に起こるハプニング、それを運んでくるキャラクター、物事を打開するために置かれた物たち。それは、壇上のすべてが舞台装置である劇のように感じられ、あまり感情移入はできませんでした。

 また、物語の展開もプレイヤーが早くから容易に予想できるものであり、それに対する裏切りもなく、エンタメ性には欠けると思いました。一方で、そういったプレイヤーに対する媚びを排し、純粋に近い物を作りたかったという意図があるのかもしれません。そもそも、こういった種類のゲームにエンタメ性を求める姿勢がよくなかったのかもと思います。こういうゲームは、説明に対して割と不親切なことが多く、それはある意味で良さでもあるんですが、このゲームに至っては、伏線とか布石が丁寧すぎて、こう言ったら失礼ですけど、しつこいくらいに感じました。行間どころか、本文もまともに読まずに説明不足だとか騒ぐ人も存在しますが、このゲームをプレイする層にはそういう心配は不要だと思いましたし、もっと突き抜けた方がいいんじゃないかとも感じました。ただし、最後の展開はあらかじめ分かっていたからこそ、美しかったと思います。

 どうして、綺麗なものを綺麗なままにできないんだろう。これはこのゲームにおける一つのテーマですが、それは世界が不条理に満ちているからだと思います。自己と他者がいて、社会が存在する。もがけばもがくほど、様々なしがらみによって引っ掻き傷ができてしまう。蛍は元々何も持っていなくて、だから心に傷もなかった。一方で、燐は大切な物を何度も失って、もがき続けてきたから心に多くの引っ掻き傷が付いてしまった。最後の線路上のシーン、燐は不条理を受け入れることができていたように思います。それでも燐が不条理に耐えられなかったのは、自分が傷付くことより、他人を傷つけてしまうこと。聡にそうしてしまったように、蛍と共に生きていくことで綺麗な彼女を傷つけたくなかった。蛍は燐が、燐は蛍がいれば他に何もいらないと口にしていましたが、何でも願いが叶う部屋の話のように、それは燐の本心ではありませんでした。青いドアの家のある世界で、蛍と異なる景色が見えて、食べ物をおいしいと感じるようになり、自分が傷つけてしまったものを理解した燐は、どこまでだって行ける切符を手にしていました。蛍が元の世界に帰れて、燐が帰れなかった。そう考えることもできますが、私は、燐がすべての不条理から解放された世界にたどり着いたと考えています。不条理からの脱却、それがタイトルの表す意味であり、それゆえ完璧な世界なのだと思います。燐は傷だらけの自分は綺麗ではないといいますが、オオモト様が言う通り、燐の心は綺麗に映りました。燐は蛍と一緒にいるとき確かに幸せで、共に生きたいという望みも本物でしょう。そのうえで、前述した理由により、本当の幸いのために自己犠牲を払い、蛍のいない完璧な世界に到達したのだと思います。そして、だからこそ美しいのだと感じました。

 そして、燐とずっと一緒に生きたいと願った蛍には、おそらく初めての大きな引っ掻き傷ができてしまいました。自己評価の低い燐には、それがどんなに大きな傷跡を残すのか、予想できていなかったと思います。悪夢のような3日間、これまで燐とすごした日々、そしてこれから生きる日々。一生消えない傷跡と一生忘れない燐の思いと共に、蛍は意味のない世界で生きていくことになると思いますが、それは幸せでもあるのだと思います。

 クリア後にパッケージを見直して、少し目頭が熱くなりました。

 今年も本格的に夏が始まりましたね。