空の殻

ゲームの感想とか。

【PC】ゲームプレイ日記 #16【冥契のルペルカリア】

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※このゲームには18歳未満の方には不適切な表現が含まれています。

  今回は冥契のルペルカリアの感想です。

 演劇を題材としたものは、これまでにもいくつかプレイしたことがありますが、その中でも一番好きなんじゃないか、と言えるくらい面白かったです。

 以前にプレイした水葬銀貨のイストリアと同じく、洗練された物語だと感じました。余計なものはそぎ落とされ、テンポよく話が展開されていくので、読み進めていくのが楽しく、止め時を見失ってしまうほどでした。ライターのルクルさんは、構成が上手いというのが私の中での印象です。

 今回も序盤から飛ばしてきますが、一方で、初めは少々駆け足気味だと感じました。最初から設定をだらだら説明しないのは好感ですが、反対に、物語に入るのに必要な設定までも省いてしまっているのではないか、と懸念してしまうこともあり、○○が○○なのに○○なのはどういうことか、などといった小さな違和感をおぼえることもしばしば。自分が見落としているのか、それとも理解力がないだけなのか、いずれにせよ、イストリアではもっと丁寧な印象でした。しかし、それは決して雑だからという理由ではなく、意図的にそうしていたことが後でわかり、さすがだと思いました。

 熱い展開など、イストリアのようにわかりやすい盛り上がりはあまりありませんでしたが、引用やオマージュが多用されており、深みのある物語に仕上がっていたんじゃないかと思います。登場人物の心情や先の展開を推察したり、これはあの物語のあの部分をなぞらえているんだろうな、と浸りながら読めたので、こうしたゲームには珍しく、単純に文章を読むのが楽しかったです。個人的にはめぐりルートの文章が一番お気に入りでした。偶然にも、前回のさくら、もゆ。銀河鉄道の夜繋がりでした。自己犠牲といえば、というくらいお馴染みですね。

 そして、物語の起伏の違いは、主要キャラの違いにも表れていたと思います。イストリアでは、心にトラウマを抱えていても、現実に立ち向かうキャラクターが多かったのに対し、ルペルカリアでは、反対に現実から徹底的に逃避しています。彼女が言う通り、私は逃避自体が悪いことだとは思いませんし、こうした物語で逃避が悪とされるのは、エンターテインメント性に乏しいからだと思います。別の彼女が、それ自体は悪くはありませんが、それで解決はしないというようなことを言っていた(うろ覚え)のが、まさにそれで、観客からしてみれば、問題が放置されたままの物語なんてつまらないわけです。しかし、当人たちにしてみれば、苦しむことなく、問題を遠ざけられて万々歳。〇〇〇の幸せを願った彼女が二通りの物語を用意していて、そのどちらでもよかったと言っていたのは、おそらく本心だろうと思います。現実に立ち向かう道がトゥルーだとするならば、逃避に溺れる道は決してバッドではないと私は勝手に思っています。

 そういうわけで、今回の主人公である瀬和くんは、被害者でありながら加害者であり、さらに、ラストまで自ら現実を受け入れなかったために活躍の場が少ないということで好みの分かれそうな主人公でした。ですが、茅ヶ崎くんが化け物じみていただけで、瀬和くんは普通といいますか、むしろ人間味あふれる主人公だったと思います。そして、劇を題材にしているためか、主人公以外も胸の内にドロドロとした感情を抱えているキャラクターばかり。ですが、そのどれもが身近に感じられるようなものだったと思います。もちろん、禁断の愛だとか、不幸を招くほどの突出した才能だとか、そんなものはそうそうありませんが、それらも俯瞰してみれば、身近な存在にあてはめられるものです。ファンタジー要素の中にそういったものを取り入れることで演劇のような距離感を演出していたのかな、と思います。

 初めは理世以外のヒロインは癖が強いと感じましたが、皆が抱えているものは人間らしい、ごくありふれたものであり、それゆえに、挫折し、逃避するのだと思います。どれだけファンタジーな超常現象の上に成り立った世界でも、演者はみな人間でした。だからこそ、フィリアで世界の崩壊に立ち向かうのは神々ではなく、人間でなければならなかったのでしょう。

 一方で、メインキャラクターが基本的に逃避しているので、自分たちの思惑通りに動く脇役たちのアドリブが光っていたと思います。そういう意図があったわけではないでしょうが、京子の天敵が同性愛者なのは笑いました(彼に関しては、押し付けられただけでホ〇ではありませんが)。彼について、彼や瀬和くんはそんな素振りを見せなかったと言っていますが、初登場シーンの第一声で、私は彼をホ〇のラスボスだと思っていました。結果二割くらい当たっていました(彼の名誉のために言うと、決してホ〇ではない)。スペックが高くて優しく格好いい、それなのに、つらい過去を抱えていて、おまけに未来もない。好きなキャラなのに、とことん不憫でかわいそうでした。そもそも、あの劇場にいなかったわけで、距離も時間も遠く、本当にただ都合が良かったから連れてこられた感が強く、完全にゴミ箱扱い。そりゃあ、復讐もするわ。そして、双葉は可愛いし、格好よかったです。人気投票をしたら、1位をかっさらうんじゃないかってくらい良いキャラしてました。決して端役ではなく、攻略のできないメインヒロインだったと勝手に思ってます。よく、男女間の友情について語られることがありますが、そもそも恋愛感情が芽生えないのは反則すれすれ。結論、ホ〇とレ〇は最強でした。という冗談はさておきまして、二人が京子の天敵だったのは、彼女によく似ていたからだと思います。種類は違えど、愛の否定と他者の幸せという共通項に、精神的強さを持ち合わせていました。他の脇役にしても、世界を存続させるために連れてきたはずが、彼らの思いが虚構を破壊する要因になっていたりと、非常に魅力的でした。ですが、彼らの物語も悲劇なので、特定のキャラが優遇されているということはなく、むしろ、すべてのキャラクターが不遇であるといってもいいと思います。それにしたって、メインヒロインであろう琥珀の扱いはかわいそう。

 シナリオは正直、よくある物語に感じましたが、陳腐さを感じさせず、独自の路線を行っていたと思います。ゲームならではの演出も楽しめましたし、CGも安定していてよかったです。それから、BGMは本当にレベルが高かった印象です。オープニングが美しすぎますし、今回はエンディングも用意されていて、ちょっとしたサプライズ気分でした。そしてなにより、誤字関連がかなり改善されたことに感動しました。大事なフレーズであるキャンバスをキャンパスに間違えたり、演劇の知識が少々怪しいと感じましたが、全体的にゲームとしての完成度が上がっていると思いました。こうして挑戦を続けながら、どんどん成長していくブランドを見ていると、とにかく嬉しい気分になります。

 今回で完全にウグイスカグラさんのファンになったので、今後も、というか、前から言っているように、近いうちに紙の上の魔法使いもプレイしたいと思います。

 プレイ後に、より一層好きになれる素敵なゲームでした。

 余談ですが、YOUTUBE公式チャンネルのQ&A≪折原氷狐?編≫はクリア後に見返すと来るものがありますね……。