空の殻

ゲームの感想とか。

【PC】ゲームプレイ日記 #15【さくら、もゆ。-as the Night's, Reincarnation-】

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※このゲームには18歳未満の方には不適切な表現が含まれています。

 本日の感想は『さくら、もゆ。-as the Night's, Reincarnation-』になります。

 さくら、魔法、代償、夜の国、などなど、聞くだけで私の好きな要素が詰め込まれているであろうゲームということで、プレイする以外の選択肢はありませんでした。前回の水葬銀貨のイストリアと同じく、ずっとプレイしたかったゲームになります。

 とはいえ、実際にプレイしてみると、なんか思っていたのと違う、というのが正直な感想でした。設定やあらすじなど、公式サイトから得た情報から、私はもっと万人受けするようなライトな話を想像していました。しかし蓋を開けてみれば、予想以上に濃密かつ複雑な設定や、キャラクター達の重い過去が次々と姿を現します。深く狭く、そして尖っている物語という印象を受けました。では、あまり楽しめなかったかというと、そうではありません。むしろ逆で、私の堅い心に容赦なくぶっ刺さりました。

 ――人は誰でも誰かになりたい。

 ――助けたいひと達がいる。

 これは、何も持たない、名もなき誰かが、自らの思い描くヒーローとなる物語です。休み時間になっても独りぼっちで窓の外を眺めている。そんな人生を送ってきた私のような人間を肯定してくれる、暖かさを感じました。

 間違いなく、プレイできてよかったゲームになります。

 一方で、このゲームをクリアするまでに三ヶ月も掛かってしまったのも事実でした。遅々として手が進まず、代わりに他のゲームに手が伸びてしまったのは、少なからず自分に合わない点もあったからです。しかも、それが序盤から中盤にかけて目立ったため、ハル√に入るまでで二ヶ月も経っていました。

 具体的には、序盤は主人公に全然感情移入できないということが一つ。主人公の抱える秘密や過去が明らかにならないうちは、彼の行動原理が分からず、かといって、魅力的に感じるような何かを持っているわけでもないからです。おまけに、事あるごとにヒーローという言葉を連呼するので、少々鬱陶しいとさえ感じました。もちろん、これらには理由があり、すべてを知った後は彼を応援したくなるのですが、それが明らかになってないうちは、主人公が好きになれませんでした。

 特に、千和√はかなりキツかったというのが本音です。千和の告白シーンは本当に最悪な対応でした。彼という人間を知れば、これも納得できますが、それにしてもその後のアクションがよく分かりません。千和の勇気を踏みにじったから、自分も勇気を出すというのは真っ当に思えます。ですが、その方向がずれていて全く感情移入ができませんでした。千和の勇気と主人公の勇気は全然種類が違います。例えるなら、嫌われるかもしれないけど真実を伝える、恥をかくかもしれないけど一発ギャグをする、というくらい両者は異なります。彼女のことを思うならば、しっかりと謝罪をした上で、自分の気持ちを真剣に伝えるというのが、正しい勇気ではないでしょうか。ちゃんと謝罪と告白もしていますが、そこに度胸試しのような要素を入れ、自分も勇気を振り絞ったぞ、というのは幼稚な自己満足に感じられてしまいました。

 そして、二人の関係は次のステップへと進み、めでたしめでたしかと思いきや、ここでは終わりません。幸せの真っ只中、突然、千和の目の前でショッキングな出来事が起こります。動揺を隠せない千和、そこに主人公が駆けつけます。そしてなんやかんやあって、性行為を始めます。ちょっと待ってくれと。相手を落ち着かせたり、慰めたりするために肌を重ねるなら分かります。逃避行為の一種として相手に依存することだってあり得るでしょう。ですが、この二人、初めてのえっちに対してノリノリなのです。他の√と同じ構成にする、シーン回想から単体で使えるようにする等の制作側の制約があるのかもしれませんが、シナリオ重視の作品でこれは如何なものか、というのが本音です。ここは個人の好みになってしまいますが、無理に本編にねじ込むくらいなら、別で用意したり、そもそもいらなかったんじゃないかなと思いました。

 その後の展開は面白く、シナリオも感動的で全体を通して見ればよかったと思います。しかし、この時点では、やはり主人公が好きになれませんでした。というのも、幸せな人生を得るために彼は精一杯頑張ったのですが、力不足な彼では大して役に立たず、得られた幸せというのが、彼以外の者達によってもたらされたものであるからです。設定上、仕方のないこととはいえ、それを享受している本人が知らない、覚えていないのは悲しいです。これについては、決して悪い点ではなく、主人公以外の好感度が上がったというだけのことです。姫織√も同じような感じでした。

 ただし、姫織√に関しては千和√のような奇行に走らず、純粋に姫織のために頑張っていたので好感がもてました。大して役に立たないという点は千和√と共通していますが、これは伏線であり、布石であるので、後に利いてきます。

 この√でキツかったのは、キャラクターではなく文章でした。ゲームを始めた頃から独特ではあるなあとは思っていましたが、この√ではかなりあくが強かったです。ただし、独特とはいえ、文体やリズムとかはそれほど気になりませんでした。これは個性だと思いますし、むしろ熱意のこもった文章で私は好きです。

 ここで単純に読みにくいと思ったのは、視点や場面の切り替えとミスリードによるものでした。ノベル形式のゲームは、大抵名前や画像、テキストボックスなどが表示されているので、視点や場面の切り替えでプレイヤーを惑わせないような工夫が簡単にできます。それゆえか、小説などに比べて圧倒的に多くこれらの移動が行なわれているように思います。視点および場面移動のメリットは、不透明であったものが、内外問わずに書き表せることです。反対に、デメリットとしてはいつ、誰の視点かが分かりにくくなることです。つまり、ノベル形式のゲームではデメリットを極力排しながら、切り替えの恩恵を受けることができるわけです。その一方で、デメリットも使い方次第では、メリットになりうることがあります。その一つが、ミスリードです。あえて、いつ、誰の視点かを分からなくすることによって、あの時これをしていたのは、こんな感情を抱いていたのはこの人だったのか、という驚きを提供することができます。この作品には、こういった切り替えに限らず、伏線を匂わせたミスリードが多く出てきます。これらはよく出来ていると感じたのですが、姫織√に関してはただ読みにくいだけで、後から驚きがあるわけでもなく、必要性が感じられませんでした。正直に言うと、ミスリードであるかどうかも自信がなく、私が勘違いしただけでそういう意図があったのかも分かりません。

 あと、誤字関連がかなり多いです。水葬銀貨のイストリアよりは大分マシですが、それでも大事なシーン等でもお構いなしに見られます。

 さて、ここまで悪いと感じた点を包み隠さずつらつらと書いてしまいました。私は、ゲームには真摯に向き合いたいと思っているので、良くない点だろうと思ったことはちゃんと書くように決めています。それは今までも同じです。

 しかし、じゃあ、このゲームは退屈だったのか、と言われるとそれは絶対にノーです。途中で止めてしまうのは、勿体ないということが言いたかったわけです。多少の気になる点などは、プレイ後には彼方に押しやられてしまう、それだけの破壊力がこのゲームには秘められているのです。とはいえ、壮大などんでん返しや衝撃の結末が待ち受けているわけではありません。そこには、人の心を動かすだけの強い思いと熱意が込められているのです。

 それでは、ハル√。メインの√であり、このあたりから本領が発揮されてきます。種はすでに蒔かれていたのです。時を超える歌、思い、魔法少女。相手を互いに思いやる優しさが生んでしまった悲劇。主人公はたった一人の少女を救うために、代償と引き換えに引き金を引く。他の√と同じく、主人公だけの力では及ばないけれど、彼の振り絞った勇気は間違いなく、運命を打ち破る活路となっていました。何度涙腺に来たかも分かりません。しかし、本当の意味でこの√を知ることになるのはまだ先の話でした。

 ラストのクロ√。夜の国、白い彼女、あの子、奏大雅、夜の王。これまでに語られなかった事実がクロの口から語られます。

 助けたいひと達がいる。これは初めから、何も持たない主人公がヒーローとなる物語でした。けれど、何も持たないからこそ、彼らを救うには相応の代償が必要になります。主人公もクロもハルも○○○も自分を許せないほどの罪の意識に苛まれていたからこそ、世界の因果をねじ曲げるほどの魔法と代償に手を出してしまった。その果てない自己犠牲の末に、色々なものがこじれてしまったのです。

 自己犠牲による贖罪は必ずしも相手を救うとは限りません。結局のところ、そうして本当に救われたいのは自分なのかもしれません。救いたい相手だって、同じように救いたい人がいる。けれど、自分のことを許せないからこそ、そうする他ないと思い込んでしまうのかもしれません。

 他人を救いたい、その一心であったはずなのに、奏大雅から聞かされるのは絶望的な事実ばかり。自分なんか生まれるべきではなかった。そう、願いたくなるのも無理はない。けれど、彼はたった一つの希望を運んできた。希望はいつだって側にありました。

 罪の意識からではなく、自分がそうしたいからこそ、自分のために魔法を使い生きることができた。何度も何度も回り道をして、たどり着いた一つの道。どこへでも行ける夜の鉄道。自己犠牲によるみんなの本当の幸いの切符を捨てて向かった結末。

 プレイ後は私も長い旅を終えたような感覚でした。生きる勇気をもらえる優しい物語でした。

 

 冥契のルペルカリアにもやっと手が出せると思ったら9-nine-の発売日が今週であることに気がつきました。