空の殻

ゲームの感想とか。

【Steam】ゲームプレイ日記 #1【黒森町綺譚 Tales of the Black Forest】

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 ゴールデンウィークも最終日。本日は、Steamにて購入したゲームの感想を書いていこうと思います。

 実は私、Steamのゲームはほとんどプレイしたことがありませんでした。というのも、理由は単純で快適にゲームができるほどのPCスペックでなかったためです。そんな経緯もあり、自作PCを手に入れたこのタイミングで大量に購入してしまいました。

 というわけで、記念すべき第1作目はタイトルにある通り、黒森町綺譚 Tales of the Black Forest です。なぜ、この作品を最初に選んだかというと、私の好みど真ん中だったからです。中国で開発された本ゲームですが、妖怪や祭儀、信仰といった日本の民間伝承が取り込まれており、そういったものが好きな私は手を伸ばさずにはいられませんでした。

 本作は全四章からなっており、プレイ時間は、テキストをゆっくりと読み、横道に逸れながらでも5時間掛からずにクリアしました。セール? で240円だったこともあり、ボリューム面でお得なのはもちろんのこと、ストーリーは舌を巻くクオリティでした。人生において、この作品に出合えたことは、間違いなくよかったと思えました。

 本作品は、電車で帰宅途中だった主人公が見知らぬ駅で目を覚ますところから始まります。主人公の名前は希原夏森(きはらかしん)、高校生の女の子です。

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 駅の名は鹿鳴(しかなり)、元ネタがあるかどうかは分かりません。真っ先に思いつくのはやはり三島の鹿鳴館(ろくめいかん)。時代背景に振り回される人間たち、というところでこじつけることもできますが、多分関係ないと思います。次に見知らぬ駅、ということで、きさらぎ駅が想起されました。母音が同じことから、これか、とも思いましたが、そもそも中国製なんですよね、このゲーム。もし、本当にきさらぎ駅が元ネタだとしたら、日本に詳しすぎて畏怖にも似た驚嘆を覚えます。

 舞台となるのは1998年の日本、恐怖の大王にも触れられてます。しかし、後述する能力によって過去に遡ったり、過去の出来事がストーリーに密接に関わってくるため、主に1980年台後半から1990年台前半がメインとなります。日本の時代背景がストーリーの根幹に影響しているのですが、某宗教団体と1995年のテロ事件がモチーフとなって、これまた物語に大きく関連しています。私は当時、まだ生まれていないため、さして抵抗は覚えませんが、やはり神経質になってしまう方も少なからずいるとは思いますので、そういった方はプレイを控えた方が賢明です。ただし、おもしろおかしくパロディとして持ち出しているというわけではなく、悲惨な出来事に対して、時代の流れ、人の生き方について真剣に考えさせられる内容となっています。

 主人公は幼いころ、黒森町という鹿森の近くに住んでいました。しかし、8歳のころに交通事故で記憶を失ってしまい、鹿森のことはおろか、それ以前のことを思い出すことができません。事故で母を亡くしてしまい、父ともほとんど話さない仲であることが語られています。

 主人公が駅舎に入ると、床に空いた大穴の上に白い羽が浮いているのを発見し、それを拾います。すると、ラジオから不気味な放送が流れてきました。それは、終末論を唱える宗教団体によるものとも思われる内容でした。ラジオを調べてみると、突然白い羽が光りだし、意識を失いかけます。ゆっくりと目を開くと、床に空いていた大穴は失せ、目の前には見知らぬ女性の姿がありました。謎の女性は呪いによって喋ることができないと伝えます(筆談)。主人公と同じくらいの年齢をした彼女は、主人公は呪いによって閉じ込められている、そして、黒森劇場に行けば呪いが解けると語りました。

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また、主人公が拾った羽が持つ力、「念写」による説明もなされます。念写とは、触れた電気製品が持つ記憶を読み取って、中に入ることができるというもの。目の前に少女が現れたのも、ラジオに触れて過去に遡ったからでした。彼女は、桐谷雪(きりたにゆき)と名乗り、自らを小説家であると告げました。主人公は自らの呪いを解くために、彼女と黒森町劇場に向かいます。と、いうのが大まかな話の流れになります。

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 設定において、特筆すべきはやはり「念写」。時間移動を扱う作品に名作と呼ばれるものは多いですが、一方で、うまく使わないと作品の評価を落としかねない諸刃の剣だと思います。ですが、本作品は非常に丁寧に扱っていた印象を受けました。

 問題や危機に直面したとき、念写を使って乗り越えていくものの、万能というわけではなく、いくつかの制約があります。その中でも、人の死は変えられないという制約は重要な役割を果たしていたと思います。他の作品では、大切な人が死んでしまったから、その人を死なせないために過去をやり直す、といったものが多くみられます。しかし、本作品では人の死を取り消すことによる安易なハッピーエンドを用意しないところに好感がもてました。時には、無力さを噛みしめながらも、それでも前に進もうとする人物たちが描かれており、物語に深みをもたせていたと思います。

 伏線も綺麗に回収しており、章の最後であれはそういうことだったのか、と驚く展開があり、まったく退屈しませんでした。特に、二章の最後で、列車のあれの理由を知ってしまったとき、あぁ……という気持ちになってしまいました。久しぶりにゲームをプレイしていて涙腺に来た瞬間でした。

 念写はそれ自体が伏線となっており、呪いとも大きく関係しています。呪いについて、3つの章を終えた後、主人公は選択を迫られることになりますが、その選択によって2つのエンディングが用意されています(明確に片方がトゥルー)。主人公の過去とも密接に関与している呪い、桐谷雪という女性の正体。重い真実を知ってしまった主人公は何を思うのか、本当に最後まで丁寧につくられた作品だと感じました。最近はゲーム自体からも離れ気味だった私ですが、ここまで琴線に触れるゲームは珍しく、前述した通り、プレイしてよかったと思います。作品の出来もそうですし、様々な妖怪が出てくるだけで個人的に嬉しかったです。本当に日本の文化が好きか、民俗学について勉強をされている方がつくったのではないかと思います。特に、桐谷さんが、怪談について語るところが好きでした。下の画像はおそらくウブメと消えずの行灯が元ネタとなっているのでは、という怪談。

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 クリア後の虚脱感が余韻となって、明日からの仕事に影響しないか心配なほどです。次はどのゲームをプレイしようかしら。